スポーツトレーナーになるために必要な勉強とは?おすすめの勉強方法と資格を紹介

オリンピックなどのスポーツ観戦で、感動的な場面に遭遇すると、スポーツ好きの方の中には「自分もこのような場面を間近で見てみたい」と感じる方もいらっしゃるでしょう。

スポーツで感動を与えるアスリートには、その活躍を陰で支える多くのスタッフが存在します。
中でも、アスリートの最も近くで支えている役割の一つが「スポーツトレーナー」です。

しかし、スポーツトレーナーという職種があることは知っていても、どのような勉強をすればなれるのかといったことは、知らない人も多いでのではないでしょうか。

そこでこの記事では、スポーツトレーナーに必要な知識や勉強法、おすすめの資格についてご紹介します。

スポーツトレーナーになるにはどんな知識が必要?

スポーツトレーナーの仕事風景

スポーツトレーナーは、運動や安全に関連する専門的な知識を勉強する必要があります。

スポーツトレーナーの知識量は、担当するチームやアスリートの成長・安全・ケガの発生のしやすさなどにも影響する場合があります。

この章では、具体的にどのような知識が必要なのか詳しく解説します。

生理学・解剖学・栄養学の基礎知識

スポーツトレーナーには、生理学や解剖学・栄養学の知識を勉強する必要があります。

それぞれの学問の特徴は以下のとおりです。

学習分野

学習内容

スポーツトレーナーが勉強する意義・必要性

生理学

生物の機能やメカニズム

アスリートの身体状況把握・ケガ予防・トレーニングメニュー作成に役立つ

スポーツトレーナーにとっては、特に運動生理学が重要

解剖学

身体の構造

ケガ予防やトレーニングメニュー作成に役立つ

スポーツトレーナーにとっては、特に身体の機能や役割を学ぶ機能解剖学が重要

栄養学

栄養素の機能や身体との関わり

アスリートに適した栄養摂取をサポートするための知識(必要な栄養・適切な量・適切なタイミング)を身につける

アスリートに必要な栄養知識に特化したスポーツ栄養学もある

専門的な知識を勉強することで、科学的にスポーツ選手をサポートできます。

応急処置やテーピングなどの知識

アスリートのケガやトラブルなどの対処を行うスポーツトレーナーは、応急処置やテーピングなどの知識についても勉強する必要があります。

アスリートがケガをしたり体調を崩したりしたときに、早く適切な初期対応をとることで、症状を軽く抑えたり、将来の後遺症が生じないようになるなどの効果が期待されます。

応急処置やテーピングなどの知識は、実践することも重要です。
そのため、実際に手を動かして技術を習得するようにしましょう。

また、AED(自動体外式除細動器)の使い方や心肺蘇生法などの知識やスキルの有無は、人命に関わるケースもあります。
正しい知識・技術の取得が重要といえるでしょう。

機材やツールの知識

指導をするうえでは、トレーニングに使用する機材・ツールの知識も身に付けておく必要があります。

スポーツによって、使用する機材も異なります。
それぞれの機材の使い方や得られる効果を知っておくことは、アスリートのけが予防になるだけでなく、効率的に運動能力を向上させる手助けになるでしょう。     

また、近年はアスリートの体調・痛みのある部分などのコンディションチェックやトレーニングメニュー、スケジュールなどをアプリで管理するケースも増えています。
さまざまなアプリがあるうえに、頻繁に新しいアプリや情報が更新されるため、これらを使いこなせる知識も求められる可能性があるでしょう。

おすすめの勉強方法とは?

スポーツトレーナーの資格の勉強をする女性

スポーツトレーナーに必要な知識を身につける方法は複数あり、どのような方法で学ぶのかによって学習に要する期間・効率・費用などが変化します。

スポーツトレーナーを目指す場合には、自分自身に合った学び方を選ぶことが重要です。
考えられる方法は次の5つです。

  • 参考書などを参考にして独学で勉強する
  • 知識を実践に移してみる
  • 自分もトレーニングをしてみる
  • 専門学校やセミナーに通う
  • 資格を取得する

1つずつ、詳しく解説します。

参考書などを参考にして独学で勉強する

生理学や解剖学・栄養学といった学問は、参考書などを元に独学で勉強することも可能です。

独学の利点は、いつでも好きなときに勉強ができることです。
また、学校などで誰かに教わるよりも、はるかに費用を抑えられます。

スポーツトレーナーには、取得が義務づけられている資格がないため、知識や技術さえ身につければ、独学でも目指すことは可能です。

ただし、独学は、誰かと知識を確認し合ったり、教わったりするチャンスが少ない点が大きなデメリットです。
そのため、勉強内容に偏りが出ることや間違って覚えてしまうおそれもあります。
実践経験も積みにくいため、セミナーや講習会に積極的に参加するなど工夫が必要です。

知識を実践に移してみる

勉強によって得た知識を実践することで、知識の定着を図ることができます。

具体的な実践方法は以下のとおりです。

  • トレーナーとして自分用に食事メニューを作る
  • テーピングやケガの応急処置を行う
  • 試行錯誤しながらさまざまなトレーニング法を試したり機器を使用したりする

自分自身でできないことは、家族や友人に練習台となってもらい、できるだけ多くの経験を積みましょう。

スポーツトレーナーにとって多くの経験は、自信につながると同時に、臨機応変に対応できる基盤となります。

自分もトレーニングをしてみる

トレーナー自身がトレーニングを経験することも、効果的な勉強方法の1つです。

選手が普段どのように身体を動かし、どの筋肉を酷使しているのか、負担のかかりやすい部位はどこなのかなどは、実際に同じような運動をすることでよく理解できます。
実体験を持つトレーナーは、実体験を持たないトレーナーよりも的確で説得力のある助言やサポートができるでしょう。

トレーニングをしてみるときに押さえておきたい考え方の1つは、できるだけ多くのトレーニングメニューを幅広く体験するように意識することです。
たくさんの種類のトレーニングメニューの体験を積むことにより、トレーナーとしての幅が広がります。

専門学校やセミナーに通う

スポーツトレーナーとしての基礎知識や技術をさらに深く身に付けたい場合や、時間的な余裕のある人は、専門学校で勉強する方法もあります。
専門学校では、どのようなスポーツトレーナーを目指したいかによって、勉強内容が変わってきます。
スポーツトレーナーに役立つ資格の取得を目指せる学校もあり、専門学校へ通う場合は、将来どのようなスポーツトレーナーになりたいのかビジョンを明確にして、学校選びをする必要があるでしょう。

専門学校は時間と費用がかかるものの、独学では補いきれない最新の情報や実践的な知識を専門の講師から習得できるメリットがあります。
また、実地研修の機会も多く得られるでしょう。

専門学校へ通わずに、セミナーを受講する方法もあります。
テーピングのセミナーやエクササイズやストレッチのセミナーなど、スポーツトレーナーに役立つセミナーが各地で開催されています。
独学でも、このようなセミナーで最新の知識や技術、情報を入手するとよいでしょう。

資格を取得する

スポーツトレーナーとして信頼を得るためには、資格の取得もおすすめです。
資格を取得することで必要な知識が身に付いていることの証明になり、信頼が得やすくなるだけでなく、就職や転職の際にも役立つ可能性があります。

スポーツトレーナーに関する資格に限らず、栄養学の知識が身に付く「管理栄養士」や、テーピングの資格なども役立つでしょう。専門学校では、さまざまな資格取得講座を設けている学校もあり、正しい知識を身に付けながら、資格取得も目指すことが可能です。

スポーツトレーナーが取るべき資格とは?

スポーツトレーナーの男性

スポーツトレーナーが取得しておくと有利な資格としては、民間資格・国家資格でそれぞれ次のようなものが挙げられます。

【おすすめの民間資格】

  • JSPO-AT(日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー) 
  • NSCA-CPT(NSCA認定パーソナルトレーナー) 
  • 健康運動指導士 
  • 健康運動実践指導者

【海外の国家資格】

  • NATA-ATC(全米アスレティック・トレーナーズ協会公認アスレティックトレーナー)

【おすすめの国家資格】

  • 柔道整復師 
  • あん摩マッサージ指圧師 
  • はり師/きゅう師 
  • 理学療法士

それぞれの資格を取得するメリット・デメリットや、取得方法などについてご紹介します。

なお、スポーツトレーナーにおすすめの資格は以下の記事でもご紹介しています。

スポーツトレーナーになるには?必要な資格や試験、仕事内容や働き方を詳しく解説

スポーツトレーナーにおすすめの民間資格・米国国家資格

スポーツトレーナーにおすすめの民間資格を表にまとめました。

国内の民間資格とアメリカの国家資格があります。
それぞれの取得にかかる時間や条件・取得方法を確認しましょう。

【民間資格】

資格の種類

認定

取得にかかる時間や主な条件・取得方法

JSPO-AT
( 日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー)

公益財団法人日本スポーツ協会

・協会が実施する養成講習会もしくは協会が認めている専門学校・大学・大学院で指定の科目を受講し、実技確認テストを修了し、検定試験に合格する

・養成講習会(および自宅学習)のカリキュラムは共通科目150時間、専門科目600時間

NSCA-CPT
(NSCA認定パーソナルトレーナー)

特定非営利活動法人 NSCAジャパン

・必須講習はなく、販売されているテキストを用いて自身で勉強し、NSCA-CPT認定試験に合格しなければならない

・受験するためには「NSCAジャパン会員であること」「満18歳以上で高等学校卒業者(高等学校卒業程度認定試験合格者も可)であること」「有効なCPR/AEDの認定者であること」などを満たす必要がある

健康運動指導士

公益財団法人健康・体力づくり事業財団

・講習会の受講、もしくは健康運動指導士養成校(大学)の養成講座を修了し健康運動指導士認定試験に合格する必要がある

健康運動実践指導者

公益財団法人健康・体力づくり事業財団

・講習会もしくは、健康運動実践指導者養成校の講座を修了し、認定試験に合格する必要がある

【アメリカ国家資格】

NATA-ATC
(全米アスレティック・トレーナーズ協会公認アスレティックトレーナー)

全米アスレティック・トレーナーズ協会

・原則としてアメリカの大学院へ留学し、修士課程を修了し、NATAが実施する試験に合格することで資格取得できる

・海外留学できる程度の語学力が必要

※2024年10月2日時点
※内容は随時更新されているため、最新情報は各団体のホームページでご確認ください。

民間資格は、取得できる条件に幅があり、独学で取得を目指せる資格もあります。
スポーツトレーナーには、必須の資格がないため民間資格でも取得することで、就職や転職で有利に働く可能性もあるでしょう。

スポーツトレーナーにおすすめの国家資格

スポーツトレーナーになるためには、必須の国家資格はありません。
しかし、近年は医療関係の国家資格を取得したうえでトレーナーとして働く人もいます。

知識としてだけでなく、仕事の幅が広がる意味でも、取得しておいて損のない国家資格が次の4つです。

資格の種類

取得にかかる時間や主な条件・取得方法

柔道整復師

・3年以上文部科学大臣指定の学校、もしくは都道府県知事指定の柔道整復師養成施設において、必要な知識や技能を習得していること

・国家試験で必修問題50問中40問、一般問題200問中120問以上正解すること

あん摩マッサージ指圧師

・3年以上文部科学大臣認定の学校もしくは厚生労働大臣認定の養成施設において、あん摩マッサージ指圧師に必要な知識や技能を修得していること

・国家試験で160問中95問以上正解すること

はり師・きゅう師

・3年以上文部科学大臣認定の学校もしくは厚生労働大臣認定の養成施設・都道府県知事認定の養成施設において、はり師もしくはきゅう師に必要な知識や技能を修得していること

・国家資格で170問中102問以上正解すること

理学療法士

・文部科学大臣指定の学校もしくは都道府県知事指定の理学療法士養成施設において、3年以上理学療法士として必要な知識や技能を修得していること

・国家試験で一般問題(1問1点)159問、実地問題(1問3点)40問中、総得点279点中168点以上、実地問題で120点中43点以上とること

※2024年10月2日時点
※内容は随時更新されているため、最新情報は
厚生労働省のホームページでご確認ください。

まとめ

スポーツトレーナーは幅広く専門的な知識を要する仕事であるため、勉強が必要とされます。

知識を身につけることはもちろんですが、トレーニング・実習・資格取得などを通じて実践的なスキルを身につけることも重要です。
さまざまな勉強方法がありますが、どの方法もメリット・デメリットがあるため、どのように学ぶかは費用面・時間的な面を考慮しながら選びましょう。

スポーツトレーナーとして、さまざまなアスリートに関わっていきたいと考えている方は、たくさんの喜びをアスリートと分かち合えるように、ぜひ多くの知識を身に付けてください。

プロフィール画像

監修者樋口 直彦

整形外科医

医療法人藍整会 なか整形外科(理事長)

帝京大学医学部卒業後、いくつかの病院で勤務し、院長を経験後、2021年1月に医療法人藍整会 なか整形外科の理事長に就任。
バレーボールVリーグのサントリーサンバーズのチームドクターも務める。骨折治療をはじめ関節外科、スポーツ整形外科を専門に治療。
クリニック運営にICTを推進し、お待たせすることない診療が信条。

執筆者山本 鮎美