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美容師の引き抜きはよくあること?ヘッドハンティングを受けた時の正しい対処法を解説

美容師として勤務するなかで、周囲で「引き抜きの話を持ちかけられた」「ヘッドハンティングされた」という話を耳にすることもあるのではないでしょうか。
実は、ヘッドハンティングやスカウトによる美容師の引き抜きは珍しいことではありません。
話を受ければ、より方向性のあったサロンで働けたり、収入を増やしたりできる場合もあるでしょう。

しかし、引き抜きの話を持ちかけられた時には、ポイントをおさえて慎重に検討することが大切です。
なかには、引き抜きの体で詐欺の話が持ちかけられることもあります。
この記事では、美容師の引き抜きについて、ヘッドハンティング・スカウトの種類について、対応方法についてなどをご紹介します。

美容師の引き抜きはよくあること?

美容師の女性

美容業界では、美容師の引き抜きは珍しいことではありません。
実際に、引き抜きに関する話を持ちかけられたという経験を持つ美容師も多くいます。
はじめに、引き抜きが起きる背景と、その違法性または合法性について解説します。

美容師にも引き抜きはある

引き抜きの連絡を受けたことがある美容師は少なくありません。
美容師に引き抜きの話が持ちかけられる背景として、美容業界の人材不足が関係しています。

厚生労働省の調査によると、美容師の属する生活衛生サービス職業従事者の有効求人倍率は、3.15倍です。(※)
有効求人倍率は、求職者一人あたりに対し、何件の求人が出されているかを示す数値です。
全職業計の1.11倍と比較すると、人材不足が著しく、各サロンが十分な人材確保をするのは難しい状況にあるといえます。

※参照:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和6年7月分)について」

また、下記の要因も関係して「すでに高いスキル・知識を備えた美容師を確保したい」「人材育成をするよりも、即戦力となるスタイリストを確保したい」と考えるサロンオーナーも多くいます。

  • サロンが生き残るために顧客を増やすにはどうすればよいか模索している
  • 独自のサービスを提供したり、充実したサービスを提供したりしてしている

上記のサロンオーナーの思いを実現して、サロンが生き残るためには、高いスキルを持つ美容師を獲得することが重要なポイントとなっているのです。
これにより、十分な知識・スキル・経験のある美容師に対して、引き抜きが多く行われています。

美容師の引き抜きは違法なのか?

美容師を引き抜く行為そのものは、違法行為とはなりません。
なぜなら、憲法によって職業選択の自由や営業の自由(選択した職業を遂行する自由)が保障されているからです。
そのため、他社の人材を自社へスカウトする引き抜き行為は、話を持ちかけること、それに応えることに違法性はなく、話を受けた際には引き抜きに応じることを検討してもよいのです。

しかし、特定のサロンから一度に大量の美容師を引き抜きしたり、虚偽の情報を流して引き抜きしたりなど、一般的な常識に則っていないと判断される時には、違法な引き抜きと判断される場合もあります。
また引き抜きの際に、美容師が顧客情報を持ち出した場合は、不正競争防止法に抵触する可能性が高いです。
くわえて、指名してくれているお客さまや、現在のサロンに通っているお客さまを勧誘することも違法行為と判断されるケースがあるため、十分注意しましょう。

よくある美容師のヘッドハンティング2種類

引き抜きを受けた美容師の女性

美容師の引き抜きに際して用いられるスカウト・ヘッドハンティングの方法は、下記の2種類に分けられます。

  • スカウト会社を経由して行われるヘッドハンティング
  • 他サロンからの直接的なヘッドハンティング

2種類の方法についてご紹介します。

スカウト会社経由のヘッドハンティング

スカウト会社経由のヘッドハンティングは、求人を出しているサロンがスカウト会社へ依頼し、希望する条件に合った美容師に声をかけて行う引き抜き方法です。
例えば、美容師が勤務しているサロンへ電話したり、客として来店したりしてスカウト会社が接触するのが一般的です。
さらにスカウト会社経由のヘッドハンティングは、下記の2種類へ分けられます。

  • 登録型・・・転職支援サービスに登録している美容師のなかから、クライアント企業(他社サロン)の求める人材にアプローチして引き抜く方法
  • サーチ型・・・転職意向がない美容師も対象として調査し、クライアント企業の求める人材にアプローチして引き抜く方法

このうち登録型の場合は、すでに「転職したい」と考えてアクションを起こしている美容師がスカウトされます。
登録している転職サイトや転職エージェントなどを通じて、クライアント企業の情報(契約条件やサロンの雰囲気・方向性)を確認しやすいため、美容師側にとっても応じるかどうかを判断しやすいスカウト方法といえるでしょう。

一方サーチ型の場合、転職を検討していない状態でも引き抜きのアプローチを受けるため、転職すべきかどうかも含めて検討する必要があります。
焦って判断を急ぎ後悔しないよう、とくに慎重に話を進めましょう。

他のサロンからのヘッドハンティング

とくにスカウト会社を経由せず、個人の美容師間で行われる引き抜き方法です。
この引き抜き方法は、従来から行われており、近年は美容師のSNSを経由して直接的にアプローチする傾向にあります。

ただし、個人間のやり取りとなるため、契約の条件があいまいなまま進行しトラブルに発展する可能性もあります。
雇用条件や給料形態、有給休暇・福利厚生など、慎重に細かく確認しておく必要があるでしょう。

引き抜きの話を持ちかけられた時の対応方法

引き抜き・ヘッドハンティングの話を持ちかけられた時には、3つのポイントをおさえて対応するようにしましょう。
思いも寄らない被害に遭ったり後悔したりしないよう、下記についてひととおり把握しておくと、実際に引き抜きの話を持ちかけられた時も落ち着いて対応できます。

  1. 会社名やヘッドハンターの個人名を聞く
  2. スカウトの経緯と理由を聞く
  3. 厚生労働省の許可について確認する

1. 会社名やヘッドハンターの個人名を聞く

引き抜きの話を持ちかけられたら、第一に、会社名・個人名・連絡先など相手の情報を確認しましょう。
自身の個人情報を伝える前に、相手の情報を聞き出し、信頼できる相手かどうかを探ることが大切です。
引き抜きの体で、有料セミナーへの勧誘をはじめとした詐欺に巻き込まれる可能性もあるため、慎重に話を進める必要があります。

また連絡を受けたあとは、対話で得た情報を元に「〇〇(会社名) 評判」「〇〇(会社名) 引き抜き」などで検索をかけましょう。
会社が実在するのか、連絡先(電話番号)や事業内容などの情報に相違がないか、評判がどうかなどを確認しておくことが大切です。

2. スカウトの経緯と理由を聞く

スカウトの方法には、ご紹介したように「スカウト会社経由のヘッドハンティング(登録型・サーチ型)」と「他のサロンからのヘッドハンティング」の2種類があります。
しかし転職支援サービスへの登録の有無によらず、下記について聞き、情報をひとつひとつ確認しておくことが大切です。

  • 自身の情報をどこから取得したのか
  • 自身のどの点を見込んでスカウトしたのか、どのような人材を求めてスカウトしているのか
  • どこのサロンからのスカウトなのか

こうした情報を確認するなかで、スカウトを依頼したサロンの温度感や、スカウトの目的などを判断できます。

3. 厚生労働省の許可について確認する

スカウト会社や転職エージェントなど、引き抜きの依頼を受けてスカウトする企業は、厚生労働大臣の「有料職業紹介事業」の許可を受けていなければなりません。
これは職業安定法に規定されており、スカウト事業の運営が許可されるには、個人情報の管理体制や、求人者・求職者の秘密を守るための措置などの体制を整えなければならないためです。

厚生労働省の許可について尋ねても歯切れの悪い回答しか返ってこなかったり、スカウト会社のサイトに許可を確認できる情報がなかったりする場合は、信頼性が低いといえます。
スカウトの話に応えることでトラブルに巻き込まれる可能性があるため、注意しましょう。

スカウトを引き受ける前に気をつけるべきこと

スカウトを引き受けるときの注意点

スカウトを引き受けたいと思った際にも、慎重な検討が必要です。
例えば好条件過ぎるスカウトに注意するのはもちろんですが、下記の4項目にも留意しておきましょう。

  • 雇用条件をしっかり確認する
  • 企業情報を徹底的に調べる
  • 人材リサーチ方法を見極める
  • 退職の意向は内定が出てから伝える

雇用条件をしっかり確認する

通常の転職や就職と同様に、トラブル防止のためにも、下記3点について確認しておくことが大切です。

  • 仕事内容・・・現在のサロンで担っている仕事内容と比較することや、自身の得意な施術、不得意な施術とサロンの傾向を比較する
  • 給与・・・給与体系がどうなっているか、基本給・歩合率・手当の額面はどう設定されているかを確認する
  • 福利厚生・・・定休、有給休暇などの体制が整っているかを確認する

現在のサロンや、近隣で出されている求人の内容と比較して「より高い給料を獲得できそう」「より自身に合った仕事ができそう」と思えるかを確認しておきましょう。
とくに、引き抜きの打診の際には、嬉しさから条件面の確認がおろそかになりがちです。

美容師の勤務時間や休暇に関する情報は、下記の記事でそれぞれ取り上げています。
あらためて確認しておきたい方は、あわせてチェックしてください。

▷美容師の勤務時間はどれくらい?残業や休憩時間、自分にあった美容室の選び方を解説【社労士監修】

▷美容師の年間休日は少ない?年間休日日数や休みが取りやすい美容室の特徴を解説

▷美容師の有給事情は?実際の有給取得率や美容師の休日事情について分かりやすく解説

企業情報を徹底的に調べる

スカウトを持ちかけられたサロンについて、企業情報を慎重に調べておく必要があります。
会社の経営理念・方向性・将来性・労働環境など、公式サイトだけでなく、サロンのSNSや口コミなども参照して調べましょう。
また同時に同業他社の情報も調べ、比較検討しておき、後悔しない選択ができるようにしておくことが大切です。

また、あわせてスカウト会社経由での打診があった際には、スカウト会社についても調べておくと安心です。

場合によっては、スカウト会社が「サロンを移るタイミングを早めてほしい」「顧客も引き抜いてほしい」など、無理な要求をしてくるかもしれません。
引き抜きのオファーを受けたからといって、安易に要求に応えると、元々勤務していたサロンや転職先のサロンとの間でトラブルになるケースも考えられます。

信頼できる会社か、評判はどうかなど、あわせて調べておきましょう。

人材リサーチ方法を見極める

ヘッドハンティングの人材リサーチ方法には、指名スカウト形式とロングリスト形式の2種類があります。
指名スカウト形式は、特定の人物を対象としてスカウトする方法です。
特定の美容師を対象としたスカウトのため、手厚い待遇や有利な選考が期待できるでしょう。

一方のロングリスト形式は、複数の候補者を対象にスカウトを持ちかける方法です。
通常の採用方式と同様に面接・選考が進む傾向にあります。

サロンが迎え入れたいと思っている美容師が自分でなければならないのか、複数の候補の一人なのかという点において、リサーチ方法が大きく異なります。
このうちどちらの形式なのかがわかれば、スカウト元企業の熱意とともに、条件交渉の難易度も測れるでしょう。

退職の意向は内定が出てから伝える

現在勤めているサロンを退職する、または退職の意向を伝えるのは、内定が出てからにすることも大切です。

仮にロングリスト形式で声がかかっており、他サロンにとって「複数ある候補者の一人」だった場合、内定が見送られれば次の職場探しに苦労してしまう可能性があるためです。

次の勤務先を確保してから、意向を伝えるようにしましょう。
ただし、退職の意思表示のタイミングがサロンの就業規則によって定められている場合があります。
一般的には退職日の「1ヶ月以上前」とされていることが多いですが、必ずタイミングについても確認したうえで、円満に退職できるように努めましょう。

まとめ

美容師の引き抜きは違法ではなく、多く行われている人材採用方法です。
スカウト会社を経由して声がかかったり、直接的にヘッドハンティングとして話を持ちかけられたりすることもあります。
引き抜きの話を受けることで、収入アップにつながる可能性もあるでしょう。

ただし、スカウトの体で詐欺が行われることもあります。
意思決定の際には、スカウト会社や他サロンが信頼できるか、方向性や雇用条件が合うかなど、慎重な検討が必要です。
ご紹介した内容を参考に、引き抜きへの対応をするようにしましょう。

また「ホットペッパービューティーワーク」では、レジュメ(プロフィール)を登録しておけば、待っているだけでスカウトが届くサービスを提供しています。
レジュメを登録したらスカウトを待つだけでよいため、毎日のサロンワークで忙しく、本格的な転職活動に乗り出すのが難しい場合にもぴったりです。
転職を検討している美容師の方や、収入アップを狙いたい美容師の方は、ぜひこの機会にレジュメ登録をしてみてください。

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監修者倉留 康太

美容師

学校法人 国際共立学園 国際理容美容専門学校

国際共立学園は創立69年の伝統ある学園で、職人の技術偏重主義に決して偏ることなく、あらゆる職業を通して、豊かな人間性を併せ持った職業人育成を目指している。『夢をかなえる 人づくり』を教育のテーマに、これまでの教育実績をさらに進化させ、社会に貢献できる人材を育成している。

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監修者秋田 繁樹

特定社会保険労務士

社会保険労務士法人 秋田国際人事総研

2004年に秋田社会保険労務士事務所として開業スタートアップをはじめ中小企業の就業規則の作成や労働トラブルの予防や解決のためアドバイスを行っています。

執筆者佐藤