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美容師の勤務時間はどれくらい?残業や休憩時間、自分にあった美容室の選び方を解説【社労士監修】
美容師の仕事に興味がある人の中には、美容師は「勤務時間が長い」「休憩が取れない」「休みが少ない」など、多忙なイメージをもつ人もいるのではないでしょうか?
ただでさえ美容師は、立ちっぱなしのことが多く、ハードな仕事です。
しっかりと休みを取って、プライベートも充実させたいですよね。
そこで今回は「労働時間」「休憩時間」「残業時間」「休日」と、気になる4つの美容室事情について、労働基準法と照らし合わせながら解説します。
また、希望する働き方のできる美容室の選び方についてもご紹介しますので、美容師になりたい、美容業界に興味があるといった人は、ぜひ参考にしてください。
美容師の勤務時間はどれくらい?
美容室といえば、9時~10時頃から、遅いところでは19時~20時頃まで長時間オープンしているイメージがあります。
厚生労働省の「生活衛生関係営業経営実態について」によると、1施設当たりの平均営業時間は9.4時間です。
中には、13~14時間営業している店舗もあります。
【1日の営業時間別施設数の構成割合】
営業時間 | 割合 |
---|---|
8時間未満 | 1.3% |
8~9時間未満 | 7.2% |
9~10時間未満 | 44.5% |
10~11時間未満 | 42.1% |
11~12時間未満 | 3.6% |
12~13時間未満 | 0.9% |
13~14時間未満 | 0.4% |
引用:厚生労働省|生活衛生関係営業経営実態について 美容業 結果の概要
営業時間が長時間になることもある美容室では、どのように勤務時間を管理しているのでしょうか?
労働基準法で定められている労働時間とは?
労働基準法第三十二条では、労働時間を次のように定めています。
“
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
②使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
引用:厚生労働省 労働基準法
1日8時間、1週間40時間の労働時間のことを「法定労働時間」といいます。
法定労働時間を超えて働いた時間が、時間外労働(残業)です。
では、10時間近く営業している美容室では、美容師はどのように勤務しているのでしょうか?
美容師の実際の勤務時間は?
美容師の仕事も、労働基準法で定められた1日8時間、1週間40時間が適用されます。
美容室の仕事は、朝の開店前の備品チェックやミーティング、閉店後は清掃や後片付けなどがあり、オープンしている時間だけ働いているわけではありません。
そのため、実際には営業時間よりさらに長く仕事をする可能性もあります。
とはいえ、中には勤務時間を固定しないフレックスタイム制を導入する美容室や、予約の少ない日は早めに退勤させる、従業員の数を増やしてシフト制にするなど工夫している店舗もあるようです。
美容師の休憩時間事情は?
お客様が途切れることなく訪れる美容室では、休憩をどのように取っているのでしょうか?
こちらも労働基準法を参考にしながら、確認しましょう。
労働基準法で定められている休憩時間とは?
労働基準法では、第三十四条で休憩時間を以下のように定めています。
“
第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
②前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。
③使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。
引用:厚生労働省 労働基準法
法定労働時間どおりに、1日8時間勤務した場合は、途中で1時間の休憩を取らなければなりません。
もしも、多忙などにより休憩時間が規定どおりに取得できなかった場合、会社側はその労働時間分の賃金を支払う必要があります。
美容師の実際の休憩時間は?
美容師も、労働基準法に沿って、8時間を超える勤務する場合は1時間の休憩を取得しなければなりません。
しかし、全員同時に休憩を取ることは難しいため、お客様の状況を見ながら順番に取得することになります。
毎日同じ時間に休めるとは限らないうえに、混雑具合によっては休憩を取る時間がずれ込んでしまう可能性もあるでしょう。
とくに、スタイリストとなってお客様を担当するようになると、なかなかまとまった休憩を取れないこともあるでしょう。
法律上は、休憩時間を分割して取得してはいけないとは決められていないため、15分×4など分割して休憩することも可能です。
美容師の残業時間・残業代事情とは?
美容室では施術の状況によって、残業が発生してしまうこともあります。
どの程度残業時間が発生し、残業代はしっかりと支払われるのでしょうか?
残業について労働基準法で定められている内容とは?
時間外労働について、労働基準法では、第三十六条で定めています。
時間外労働をさせる場合、美容室側は従業員と労使協定(36協定)を結び、労働基準監督署長へ届け出る必要があります。
ただし届け出さえすれば、何時間でも時間外労働できるわけではありません。
2019年4月(中小企業は2020年4月)より、特別条項を設ける場合(通常予見することができない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合)を除き、時間外労働の上限が月45時間・年360時間と定められました。
第三十六条に違反した場合は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科せられる可能性があります。
なお、労働基準法で定められている「時間外労働」とは「法定労働時間(1日8時間・1週40時間)」を超えた時間のことをいいます。
会社で定めている「所定労働時間」が1日7時間30分の場合、30分残業したとしても、労働基準法の「時間外労働」には当たりません。
残業手当の支払いを、法定労働時間・所定労働時間どちらを基準に考えるかは、会社によって異なります。
美容師の残業はどれくらい?
厚生労働省の令和5年賃金構造基本統計調査によると、美容師(理容師含む)の残業時間は、ひと月当たり3時間です。
ただし、この調査では10人以上の企業規模の美容室に勤務する美容師のみ対象となっており、少人数で経営している美容室は含まれていません。
美容室では、閉店後だけでなく開店準備などにより早めに出勤することもあります。
勤務時間が10時のオープンから19時の閉店までとなっていても、実際はそれよりも早くから仕事すれば、その時間も時間外労働です。
そして、アシスタントにありがちな閉店後のヘアカットなどの練習時間も、時間外労働となる可能性があります。
ただし、次のようなケースで、指揮命令下に置かれた状態ではないと判断できるときは、残業代は原則として発生しません。
- 閉店後の自主練習を禁止されているにもかかわらず勝手に行った場合
- 閉店後はやめるよう注意されたにもかかわらず自主練習していた場合
サービス残業とは?
サービス残業とは、就業時間前後や休日など通常の業務時間外に、賃金の支払いを受けずに働くことをいいます。
サービス残業とみなされるのは、次のような場合が考えられます。
- 法定労働時間の終了と同時にタイムカードを通させ、それ以降にも仕事をさせる
- 20分時間外労働をしたが、30分単位でしか計算しないとして残業代を支払わない
- 閉店後に自主練習せざるを得ないような環境にしながらも、残業代を支払わない
サービス残業は本来、労働基準法に違反する行為のため、あってはならないことです。
多くの美容室は、労働基準法に沿って働ける環境を整えているものの、このようなサービス残業をさせている美容室がまったくないとは言い切れません。
正しい賃金を受け取るためにも、求人募集で気になった美容室は事前にリサーチしたり、面接の際に質問したりして、見極める必要があります。
美容師の休日事情とは?
労働基準法では、休日の取り方を次のように定めています。
“
第三十五条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
②前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。
引用:厚生労働省 労働基準法
1日8時間労働と考えると、年間休日は104日以上が目安の一つとなります。
※年間52週×週2日の休日=104日
この目安に合わせて美容室では、週に1回+隔週1日程度を休みとしている店舗が多く、夏や冬の長期休暇と組み合わせて日数を満たしています。
美容師の休日に関しては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
▷美容師の年間休日は少ない?年間休日日数や休みがとりやすい美容室の特徴を解説【美容師監修】
自分に合った働き方ができる美容室の選び方
理想の働き方をするためには、自分の希望に合った美容室を選ぶ必要があります。
スキルを磨くことを最優先させるのであれば、講習会に積極的に参加させてもらえる美容室や、オーナーから直々に指導してもらえる勉強会があるなど、教育体制の整っている美容室がよいでしょう。
プライベートも充実させたい、休日はしっかり取りたいなど自分自身のライフスタイルに合わせた働き方をしたい人も、勤務先は慎重に選ぶ必要があります。
募集要項の勤務時間や休暇などの条件を比較する
ワークライフバランスを意識して働きたい人は、求人募集に掲載されている勤務時間や休暇など、それぞれの美容室の条件を比較しましょう。
美容室も労働基準法に沿った勤務時間や休日を取る必要がありますが、勤務する店舗によってその待遇はさまざまです。
自由にシフトを決められる美容室でも、土日のような繁忙日は避けなければならないなど、指定がある可能性もあります。
近年は、離職率を下げるために、美容師の働き方を見直している美容室もあります。
週休2日制を取っている美容室や、時短勤務可能な美容室、有給休暇の取得率の高い美容室などもあるようです。
求人募集に掲載されていなければ、面接時に確認してもよいでしょう。
業務委託などの雇用形態を選択する
美容師になるには、正社員だけでなく業務委託のような雇用形態もあります。
業務委託とは、美容室に雇用されずにフリーランスの美容師として働く方法です。
正社員ではないため、働く時間や日数を自身の都合で決められるメリットがあります。
一般的には、美容室が集客したお客様や新規来店のお客様のカットやカラーを行い、その売り上げの一部を報酬として受け取ります。
会社に所属していないため、毎年確定申告が必要です。
多くの美容室では、スタイリストとして経験豊富な人材を業務委託で募集していますが、中にはアシスタントから募集しているケースもあります。
また、業務委託で働くスタイリストの専属アシスタントとして、同じく業務委託で働くことも可能でしょう。
どちらの方法で働くとしても、アシスタントはまだまだスタイリストの卵です。
知識や技術を身に付けるために指導を受ける必要があることを考えると、業務委託でも教育体制が整っている美容室や、熱心に指導してくれるスタイリストのもとで働くことが重要です。
まとめ
美容師の勤務時間や休憩時間・残業時間などは、労働基準法にのっとって決められています。
美容師の仕事はハードなイメージをもつ人もいるかもしれませんが、一般的な企業同様に週休2日制を導入している美容室や、勤務時間をずらしてフレックスタイム制を導入している美容室もあります。
仕事にはしっかり取り組みつつも、プライベートも楽しみたい人は、求人の募集要項にしっかり目を通し、自分に合った働き方のできる美容室を探しましょう。
監修者:齊藤 彩子
美容師
学校法人 国際共立学園 国際理容美容専門学校 美容科学科長
国際共立学園は創立69年の伝統ある学園で、職人の技術偏重主義に決して偏ることなく、あらゆる職業を通して、豊かな人間性を併せ持った職業人育成を目指している。『夢をかなえる 人づくり』を教育のテーマに、これまでの教育実績をさらに進化させ、社会に貢献できる人材を育成している。
監修者:秋田 繁樹
特定社会保険労務士
社会保険労務士法人 秋田国際人事総研
2004年に秋田社会保険労務士事務所として開業。スタートアップをはじめ中小企業の就業規則の作成や労働トラブルの予防や解決のためアドバイスを行っています。