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フリーランス美容師の入れる保険とは?国民健康保険と社会保険の違いや手続きを解説

フリーランス美容師にとって、適切な保険の選択は重要です。国民健康保険と社会保険は独自の性質を持ち、それぞれの手続きやメリットが異なります。
フリーランス美容師の保険の加入方法には、「社会保険の任意継続」「被扶養者として家族の社会保険に加入」「国民健康保険に加入」「美容国保に加入」の4つがあります。

本記事では、国民健康保険と社会保険の違いをはじめ、4つの加入方法の特徴、国民健康保険の加入手続きの手順について解説します。

【保険の基本】社会保険と国民健康保険の違い

保険に関する画像

日本は「国民皆保険制度」を採用しており、国民全員が健康保険に加入しなければなりません。
加入できる保険の種類は、「社会保険(健康保険)」と「国民健康保険(国保)」の2種類に分類されます。

【1. 社会保険(健康保険)】
雇用されている美容師は、企業の組合健保や協会けんぽなどが営む社会保険に加入します。この保険への加入要件は、事業主(美容院・サロンの経営企業)に雇われている、74歳以下の正社員であることです。
また、パートやアルバイトでも、一定の要件を満たせば加入できます。

社会保険の場合は企業が保険料の半分を負担するため、自己負担する保険料が安くなる点が特徴です。
さらに、怪我や病気をした場合には傷病手当金が支給されることで、療養中の生活費を補えます。

【2. 国民健康保険(国保)】
独立してフリーランス(個人事業主)となった美容師は、国民健康保険への加入が基本です。国民健康保険には、市区町村が営む通常の「市区町村国保」と、特定の職業団体が営む「職域国保」の2種類があり、美容師の職域国保は「美容国保」と呼ばれます。

市区町村国保には、傷病手当金などの制度が設けられていないですが、美容国保ではいざという時に各種手当金が支給されるので、あまり苦労することはありません。国保の場合、保険料は全額自己負担となり、実際に支払う金額は毎年の収入に応じた変動制です。

このように、社会保険と国民健康保険には、それぞれ異なる特徴やメリットがあります。
雇用形態や職業によって、加入する保険が決まるため、自分の状況に適した保険の選択が重要です。

フリーランス(個人事業主)美容師の保険の入り方は主に4つ

美容師の女性

雇用主のいる美容院で一定期間働いた後に独立した場合、保険の加入手続きはいくつかの種類から選べます。具体的には、「社会保険にそのまま加入する方法」「国民健康保険に切り替える方法」をはじめとした、4種類から選択することが一般的です。

以下に、それぞれの加入方法について解説します。

1. 社会保険の任意継続を行う

社会保険完備のサロンなどを辞めて、フリーランス・個人事業主となった場合、退職後2年間は勤務先で加入していた社会保険を任意継続できます。任意継続の要件は以下の通りです。

  • 退職までの期間で2カ月以上社会保険に加入していること
    ※この加入期間は通算ではなく、継続している必要があります
  • 退職後20日以内に「任意継続」の手続きを行うこと

任意継続の場合、2年間の保険料は変わらないですが、退職後は企業が保険料を負担してくれなくなるため、これまでよりも保険料が高くなります。一般的に企業との折半が多いことから、保険料が2倍になることを覚悟しなければなりません。
ただし、保険料には上限が定められており、30万円を超えることはないので、国民健康保険への加入より保険料が安い可能性もあります。
※ただし、組合健保に加入していた場合は上限が異なることがあります。
※2024年6月現在

任意継続を選択する場合は、自分にとって経済的に有利かどうか、国民健康保険と比較検討することが重要です。
収入の状況に応じて、国保加入と社会保険の任意継続を比較し、安く利用できる方を選びましょう。

2. 被扶養者として家族の社会保険に加入する

被扶養者として、家族の社会保険へ加入することもひとつの手です。
家族(結婚している場合は配偶者、独身の場合は親など)の扶養に入ることで、家族が加入している社会保険に加入します。被扶養者になるには、配偶者や親が企業に勤めていることが前提です。

被扶養者になると、保険料の負担が軽減するメリットが得られます。扶養に入っている間、収入が一定未満であれば、自分で保険料を支払う必要はありません。
具体的には、年間収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)、なおかつ被保険者の年間収入の半分未満であることが要件です。
したがって、独立したばかりで収入が安定していない美容師にとっては、家族の扶養に入ることが有力な選択肢です。

そのほか、被扶養者として社会保険に加入するための要件として、以下が挙げられます。

  1. 被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人
    ※これらの方は、必ずしも同居している必要はありません
  2. 被保険者と同一の世帯で主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人
    ※「同一の世帯」とは、同居して家計を共にしている状態をいいます

    ① 被保険者の三親等以内の親族(1に該当する人を除く)

    ② 被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子

    ③ ②の配偶者が亡くなった後における父母および子
    ※ただし、後期高齢者医療制度の被保険者等である人は除きます

※引用:全国健康保険協会「被扶養者とは?」

3. 国民健康保険に加入する

国民健康保険(国保)は、企業などに雇用されていない人を対象とした健康保険制度です。フリーランスや個人事業主、年金受給者などが加入します。雇用されている場合とは異なり、扶養という概念がないので、自分が家計の大黒柱である場合は、家族全員が国保に加入する必要があります。

保険料は前年の収入に基づいて決まりますが、一般的には収入が増えると、それに伴い保険料も高額になる仕組みです。フリーランスの場合は適切な経費計上を行うことで、社会保険への加入よりも保険料が安くなる可能性も考えられます。

また、市区町村によって保険料率が異なるため、自身の住民票がある地域での計算方法を確認することをおすすめします。地域ごとの保険料率が公開されている市区町村の公式サイトなどで、詳細をチェックしてみましょう。

4. 東京美容国民健康保険組合(美容国保)に加入する

美容師としてフリーランスや個人事業主になる場合、「東京美容国民健康保険組合(美容国保)」への加入も選択肢のひとつです。美容国保は通常の国民健康保険とは異なり、保険料が一律である上、多くの手当金があります。
例えば、国保にはない「入院手当金」や「出産手当金」などが支給されます。
また、家族を扶養に入れることも可能です。
ただし、収入によっては、国保よりも保険料が高額になる場合もあるので、注意が必要です。

美容師向けの職域国保は、東京美容国民健康保険組合のほかに、「大阪府整容国民健康保険組合(整容国保)」や「全日本理美容健康保険組合(理美けんぽ)」も存在します。
しかし、フリーランスや個人事業主が加入できるのは、その中でも東京美容国民健康保険組合のみです。
なお、加入には東京都内にサロンがあり、東京(島しょを除く)およびその周辺の首都圏(神奈川・埼玉・千葉・茨城・山梨)に在住していることが前提です。

フリーランス(個人事業主)美容師が国民健康保険に入る際の手続き

保険加入の手続き

国民健康保険への加入手続きは、これまでの社会保険などへの加入状況や、扶養家族の有無によって、必要な書類が異なります。
自分の加入手続きに必要な書類をあらかじめ確認し、期限内に完了させることが重要です。

以下より、実際の手続き内容や必要書類、注意点などを解説します。

手続き内容

国民健康保険への加入手続きは、現在居住している市区町村の役所窓口に必要書類を提出することで行えます。
社会保険から国民健康保険への切り替えには、「資格喪失から14日以内」という期限が設定されています。期限を越えても手続きは可能ですが、未加入期間の保険料は加入後にまとめて徴収される仕組みです。

また、無保険期間に病院などを利用した場合は保険証を提示できないため、医療費を全額自己負担しなければなりません。これを避けるためにも、迅速な手続きが求められます。

手続きの際には、社会保険の加入状況や家族構成に応じた各種書類が必要です。これらを事前に準備し、市区町村の役所窓口で手続きを行いましょう。
手続きが完了すれば、新しい保険証が発行され、国民健康保険への加入が正式に認められます。

必要な書類

まず、退職していることがわかる書類として、次のいずれかを用意しましょう。

【必要書類1(退職していることがわかる書類のうち、いずれかひとつ)】

  • 退職証明書
  • 健康保険資格喪失証明書
  • 雇用保険被保険者離職票

【必要書類2(本人確認書類のうち、いずれかひとつ)】

  • 運転免許証
  • マイナンバーカード
  • パスポート
  • 在留資格認定証明書

もし、本人以外が手続きを行う場合は、依頼者本人が書いた「委任状」が必要です。本人以外が書いたものは無効となります。
また、依頼者と同居している家族であっても、住民票上では別世帯となる場合も委任状が求められます。
手続き時には、代理人の本人確認書類も提示が必要になるため、あらかじめ準備しておきましょう。

注意点

サロンなどで雇用されていた際に社会保険に加入しており、その社会保険に家族を被扶養者として加入させていた場合、退職後の保険手続きに注意点があります。

このケースでは、退職証明書や雇用保険被保険者離職票を提出しても、国民健康保険への切り替えはできないため、社会保険事務所に健康保険資格喪失証明書や「扶養削除証明書」を発行してもらうことが必要です。

これらの証明書は市区町村の国保窓口に提出するものであり、適切な手続きを行わないと、家族全員の保険の切り替えが進みません。
特に、扶養削除証明書は被扶養者の資格喪失を証明する書類なので、忘れずに発行してもらいましょう。
退職後14日以内にしっかり準備し、必要な書類をそろえることで、保険の切り替えがスムーズになります。

まとめ

美容師が独立し、東京都内にサロンを開業する場合に限り、美容国保に加入できます。
それ以外は国民健康保険への加入、任意継続、家族の扶養内で社会保険への加入など、年間の収入や家族構成、居住地などを加味して、自分に適した保険を選択することが重要です。

美容師の活動領域が、美容院・サロンの枠を超えて広がっている昨今では、一度フリーランスになっても、さまざまなキャリアプランを打ち出せます。
自分のスキルアップに合わせて、保険の形も柔軟に比較検討することをおすすめします。

プロフィール画像

監修者齊藤 彩子

美容師

学校法人 国際共立学園 国際理容美容専門学校 美容科学科長

国際共立学園は創立69年の伝統ある学園で、職人の技術偏重主義に決して偏ることなく、あらゆる職業を通して、豊かな人間性を併せ持った職業人育成を目指している。『夢をかなえる 人づくり』を教育のテーマに、これまでの教育実績をさらに進化させ、社会に貢献できる人材を育成している。

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監修者秋田 繁樹

特定社会保険労務士

社会保険労務士法人 秋田国際人事総研

2004年に秋田社会保険労務士事務所として開業スタートアップをはじめ中小企業の就業規則の作成や労働トラブルの予防や解決のためアドバイスを行っています。

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