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美容師の将来性とは?現状や今後のニーズ、時代に合った働き方
美容やおしゃれに関する仕事に就きたいと考えたとき、候補のひとつとなるのが美容師です。
しかし、AIやロボットの普及、あるいは時代の流れなどの問題から、美容師の将来性はあるのか、いつまで続けられるのか悩んで一歩を踏み出せない方もいるのではないでしょうか。
そこで、この記事では美容師の将来性や働き方について、データをもとにわかりやすく解説します。
美容師の将来性とは?収入や労働環境について解説
まずは、美容師の収入や労働環境に関するデータをもとに、美容師は将来性がある職業なのかを解説します。
美容師の収入の現状とは
美容師の平均収入は、約330万円(※1)が目安です。
全国・全職種の平均年収が約458万円(※2)であることを考えると、年収の相場は低いと言わざるを得ません。
※1 引用:厚生労働省「職業情報提供サイト job tag」
※2 引用:国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査 」
ただし、歩合制を採用する職場が多いため、指名料などで収入をアップしていきやすいのも美容師の特徴です。技術や経験を積極的に身につけることでより指名してもらえるようになり、平均より多くの収入を得られる可能性が高くなります。
また、技術や知名度が高くなれば、将来的に独立開業を目指すことも可能です。独立開業すれば、手腕次第で雇用されているときよりも多くの収入を得られるかもしれません。
なお、アシスタントや店長といった各ランクに応じた給料の詳細を知りたい方は、次の記事も参考にしてください。
▷美容師の給料・年収はどれくらい?アシスタントから店長まで各ランクの給料など徹底比較【美容師監修】
美容師の労働環境の現状とは
続いて、美容師の労働時間や休憩など労働環境について解説します。
美容師の多くは雇用されて働いているため、労働時間は労働基準法に則り、1日約8時間・週40時間が目安です。ほかの労働と変わらない水準にあります。
ただし、休憩時間は不規則になることがあります。労働基準法では、6時間超勤務の場合は45分以上、8時間超勤務の場合は1時間以上の休憩時間が必要とされていますが、美容師は接客業であり、予約状況により休憩の時間帯が変わる場合があります。特に年末や年度末などの繁忙期には特定の時間に休憩を取ることが難しくなります。
また、美容師の多くは閉店後など、営業時間外にカットの練習をします。会社側の業務命令であれば残業代として賃金(時間外労働の場合は割増賃金)が支払われますが、一般的には自主練習にあたるため無給です。
さらに、歩合制や指名料を基に給与が決定される美容師の場合、お客様の予約変更により収入が減少するリスクがあります。
加えて、ゴールデンウィークやお盆など、他の職種が休みの時期に働くことが多いため、まとまった休みを取りにくい傾向があります。これらの要因により、給与や休暇が不安定になることも珍しくありません。
ただし、これらは就職先のサロンや働き方によっても変化します。「連休を取りたい」「残業代を重視したい」など、譲れない点がある場合、融通が利くサロンを選びましょう。
美容師の将来性1:高齢者向けの訪問美容などニーズ拡大する可能性あり
現時点で美容師の需要は拡大傾向にあります。特に、高齢者向けの需要が増える可能性があるのは、注目すべき点です。
現在は団塊世代が後期高齢者となりつつあります。高齢化社会の加速と併せて、高齢者向けのサービスも今後拡大していくと考えられます。
たとえば、自分の足で美容院へ定期的に通うのが難しい高齢者に対する、福祉美容の分野が挙げられます。福祉美容師は、施設や自宅で過ごす高齢者を訪問し、ヘアカットを中心としたサービスを提供する仕事です。
このように時代の流れから、一般的な美容室でのヘアカットとは異なるニーズも生まれつつあります。
美容師の将来性2:美容師はAIやロボットに仕事を奪われる可能性が少ない職業
仕事の将来性を考えるうえで、多くの業界で懸念されているのが、AIやロボットの存在です。
美容師の業界でも、お客様にぴったりのヘアスタイルを選定するために、生成AIを使用してイメージをつかみやすくしたり、髪質や最適なヘアケア方法をAI診断したり、掃除にAI搭載のお掃除ロボットを導入したりするなど、AI導入は着実に進んでいます。
しかし、AIやロボットが美容師の仕事を完全に代替することは現実的ではありません。その理由は、人の髪や肌に直接触れ、施術を行う仕事であるからです。
美容師の仕事には、個々のお客様の好みやニーズを的確に理解し、ヘアカットやカラーに反映させる高度な技術とセンスが求められます。また実際のヘアカットは繊細な手作業であり、その技術的な部分をAIやロボットが短期間で代替することは困難です。
そのため、美容師の仕事は当面AIやロボットによって奪われることはないと考えられます。
将来的にAIやロボットが技術的な作業の一部を担うようになったとしても、多くのお客様は依然として人間による接客や施術を好むでしょう。そのため、美容師の仕事が将来的に廃れることはほとんどなく、長期的に安定した職業といえます。美容師は、10年、20年先はもちろん、体力が許す限り働き続けることが可能です。
現状、美容院・美容師の数は増加している
続いて、美容院・美容師の数における現状をそれぞれ解説します。現在、美容院・美容師の数は、ともに増加傾向にあるのが特徴です。
美容院(サロン)は毎年5000店舗以上増加
厚生労働省の調査「令和4年度衛生行政報告例の概況」によると、美容院(サロン)は増加傾向です。
2021年(令和3年)時点で、全国に美容院(サロン)は264,223店舗あります。翌年の2022年(令和4年)時点では、美容院(サロン)の数は全国に269,889店舗あり、5,666店舗増えていることがわかります(※3)。
美容院(サロン)の数は減ることがなく、1995年(平成7年)から年2%を目安に右肩上がりで推移しているため、今後も美容院(サロン)が減ることは考えにくいでしょう(※3)。
数が増えることで、働き口の選択肢も増えます。また、全国どこにでもあるため通いやすいのもポイントです。
※3 引用:厚生労働省「令和4年度衛生行政報告例の概況(生活衛生関係) 」
美容師は毎年1万人以上増加
美容師の人数も増加傾向にあります。厚生労働省の調査「令和3年度衛生行政報告例の概況」によれば、美容師の数は、2021年(令和3年)時点で全国に561,475人(※4)です。
また、翌年の2022年(令和4年)時点では全国に571,810人(※5)と、年間で1万人以上増えていることがわかります。
※4 引用:厚生労働省「令和3年度衛生行政報告例の概況(統計表7 生活衛生関係施設(者)数, 都道府県-指定都市-中核市(再掲)別) 」
※5 引用:厚生労働省「令和4年度衛生行政報告例の概況(統計表7 生活衛生関係施設(者)数, 都道府県-指定都市-中核市(再掲)別) 」
美容師は増加傾向にありますが、一方で国家資格が必要な仕事であるため、誰でも美容師として働けるわけではありません。それゆえ就職、転職の競争率が極端に変化するリスクが少なく、全国どこでも働けるため、資格さえあれば男女問わず働きやすい環境です。
このことから、現時点で美容師の仕事は、資格と実力があれば安定して働いていけると考えられます。
美容師として将来性のある働き方を実現する4つのポイント
美容師はAIやロボットにも仕事を奪われにくく、人数や働き口も増加傾向にあり、将来性のある仕事であることがわかりました。しかし、実力が大きく影響する仕事でもあり、実際に生涯美容師として働くには努力が必要です。
そこで、長く美容師として働いていくためのポイントを、次の4つに分けて解説します。
- 店長やトップスタイリストを目指す
- スキルアップを怠らない
- トータルビューティサロンへと活躍の場を広げる
- セルフプロデュースを行う
1.店長やトップスタイリストを目指す
店長やトップスタイリストへの昇格により、美容師としてのキャリアをさらに高め、より充実した職業生活を送ることが可能になります。
店長はサロンの運営に深く関わるため、チーム管理やビジネススキルを習得できます。また、トップスタイリストになることで、新規顧客を引き付け、サロン内での意思決定において中心的な役割を果たすようになります。
さらに、店長やトップスタイリストは一般的に基本給が高く設定されており、歩合給やボーナスの追加によって収入が大幅に向上することもあります。
店長やトップスタイリストになることを目標とし、日々の技術と接客を磨き続けることで、効率的にキャリアを構築し、目標達成に向けて進むことができます。
2.スキルアップを怠らない
美容師は、技術や経験が仕事の出来ばえや給与、キャリアに大きく影響するため、スキルアップを怠らない姿勢が大切です。
普段のカット練習などのほかにも、スキルアップの手段にはさまざまなものがあります。
たとえば、美容師以外に美容関連の資格を取得するのも有効です。あるいは、セミナーへ定期的に参加して知識や技術を身につけたり、同じ美容師との交流や情報交換をしたりする人もいます。
流行をいち早くキャッチするよう、アンテナを張りめぐらせる方法もあります。
また、SNSで情報発信していけば、知名度の向上や集客力のアップなども期待できます。
このように、さまざまな手段を駆使して美容師の腕を磨いていくことで、将来的に活躍できる美容師になれる可能性が高くなります。
3.トータルビューティサロンへと活躍の場を広げる
現在、トータルビューティサロンの数は増えつつあります。
ネイリストやエステティシャンの検定を受けたり、着付けの技術を学んだりなどして、関連資格を取得し施術できるようになると、活躍の幅が広がります。
トータルビューティサロンでは、美容師免許を活かしたまつ毛エクステや眉毛カットに加え、エステやネイル、着付けなど、さまざまな美にまつわるサービスを総合的に提供します。たとえば七五三や成人式、結婚式など、お客様にとって一生に一度の機会をサポートできるのも、トータルビューティサロンの魅力です。
エステティシャンやネイリストなど、美容師と異なり国家資格のない仕事に関しては、必ずしも資格が必要ではありませんが、資格があったほうが信頼性は高くなります。
また、提供できるサービスが多いほど経営上の多角化・差別化につながるため、他店との競争力がアップします。
ネイリストとアイリストの資格取得方法については、以下の記事で詳細に解説しています。複合的な美容サービスの提供をお考えの方はぜひ参考にしてください。
▷「【ネイリスト監修】ネイリストになるには?必要な資格の取得方法や仕事内容を徹底解説」
▷「アイリスト(アイデザイナー)とは?必要な資格や検定、仕事内容を徹底解説【専門家監修】」
4.セルフプロデュースを行う
自身のスキルや個性に自信があるなら、セルフプロデュースを行うのもおすすめです。SNSを活用し、スタイリングに役立つ情報を積極的に発信しましょう。
ほかの人に役立つ情報を発信するほど、美容師としての価値は高まり知名度も上がります。指名の機会が増え、将来的には独立開業も視野に入るでしょう。
また、セルフプロデュースの際に自身のスタイリング実績を公開すると、より信頼感が増します。写真や動画があれば、お客様にとって選ぶ決め手にもなるのがポイントです。
美容師の時代に合った働き方を4つ紹介
美容師と言うと、美容院に雇われて働いているイメージがありますが、近年は働き方の選択肢も増え、自分に合った方法が選べます。そこで、美容師の主な働き方を次の4つに分けて紹介します。
- 安定志向なら直接雇用
- 活動の幅を広げたいならフリーランス
- 自分好みのサロンを経営したいなら独立開業
- 大きな成功を手にしたいなら海外進出を検討
1. 安定志向なら直接雇用
ベーシックな方法は、やはり直接雇用です。美容院やサロンなど、求人募集から選んで応募し採用されるのを目指します。
美容師の雇用形態はさまざまで、正社員、契約社員、パート、アルバイトなど他業種と同様です。給料は歩合制が一般的ですが、すべてが歩合で決まるわけではなく、固定給と組み合わせている美容院も少なくありません。
また、下積み時代は指名を得られないため、歩合ではなく固定給となっているケースもよく見られます。
一般的に美容院ではアシスタント、スタイリスト、トップスタイリスト、店長とランクアップします。スキルアップを重ねていけば、雇用先でのキャリアアップにつながり、役職に就けるでしょう。
また、美容院によって給与形態や福利厚生などの待遇には差があります。ほかの業種や職種同様、求人に応募する際はしっかりと要件を確認し、長く働きたいと思える職場を選びましょう。
2. 活動の幅を広げたいならフリーランス
フリーランス(個人事業主)の美容師として活動し、収入を得る方法もあります。フリーランスとして仕事を得るにはいくつかの方法があるため、それぞれ解説します。
業務委託の美容師
代表的なのは、美容院(サロン)と業務委託契約を結び働く方法です。
直接雇用では美容院側の意向に縛られてしまいますが、業務委託では仕事内容や勤務時間などをある程度自分で決められるため、自由度の高さが魅力です。
美容院側の意向を優先するのか、自分の希望する働き方を優先するのかなど、契約次第で仕事の内容も大きく変わってきます。
たとえば、指名客だけに対応する契約であれば、予約のない時間は自由に過ごせます。直接雇用に比べると自分の時間を確保しやすいため、スキルアップや新規顧客の開拓、情報発信など、自分の専念したいことに集中できるはずです。
ただし、雇用者ではなくあくまで個人事業主の立場になるため、働くにあたって労働基準法などは適用されません。福利厚生なども原則として受けられなくなります。
国民年金や健康保険なども自分で加入しなくてはならず、厚生年金の加入もできないため、老後の資金に関してはよく考えておく必要があります。
シェアサロンの美容師
指名のお客様がいるときだけ、美容院やシェアサロンの一部を借りて働く方法もあります。いわゆる「面貸し」という形態です。
フリーランスの美容師は美容院やシェアサロンに場所代を払い、美容院やシェアサロンは美容師に場所を提供します。
面貸しによって働くメリットは、業務委託契約よりも自由度が高く、収入アップが期待できることです。
業務委託契約では、いったん美容院側にお客様が代金を支払います。そこから諸費用を差し引いた額が、美容師に支払われる仕組みです。
対して面貸しでは、ヘアカットの代金は直接美容師に支払われ、美容師は収入のなかから美容院に場所代を払うかたちになります。
自分の腕に自信があり、指名客が多いのであれば、そのまま収入につながるのが魅力です。
ただし、業務委託契約同様に労働基準法の適用はなく、福利厚生や各種保険なども対象外です。もし体調を崩すなどで働けなくなった場合、雇用保険の適用がないため、収入が途絶えてしまうリスクは覚悟しておく必要があります。
訪問美容師
訪問美容師として、美容院(サロン)に訪問できない高齢者や障がい者などのお客様が住む施設や自宅に直接訪問し、カットなどの施術を行う働き方もあります。
先述の通り、高齢者向けのサービスは需要を拡大しているため、ニーズは高いと言えます。
最低限必要なのは美容師免許ですが、「訪問福祉理美容師」の資格も併せて取得しておくと、スキル証明にもつながり集客がしやすくなります。
※引用:一般社団法人日本訪問福祉理美容協会「資格認定制度について 」
3. 自分好みのサロンを経営したいなら独立開業
技術や接客など、自分好みの美容院(サロン)を追求したいのなら、最終的に独立開業する働き方もおすすめです。ヘアカットやパーマなどだけに特化した美容院はもちろんのこと、近年ではトータルビューティサロンの需要も高まっています。
美容師免許があればヘアカット以外にも、メイクやまつエクの施術が可能です(※)。また、必要に応じてエステやネイルなどの施術もできます。
トータルビューティに対応した自分のサロンを開業し、ほかの美容院とは差別化を行いながら営業を行えば、自分の理想に共感するお客様が集まってきてくれるでしょう。
※メイクについては美容師免許は必須ではありません
4. 大きな成功を手にしたいなら海外進出を検討
一歩進んだ働き方としては、海外進出も視野に入ります。
美容師の仕事は先述の通り、今後も高齢者向けサービスの需要は増えると見込まれるため、将来性はあります。
一方で、高齢者向けサービスではカットや白髪染めなどのオーダーが中心となるため、大幅に収入を増やすことは難しいと考えられます。
そこで検討の余地があるのが、海外進出です。海外のなかでも日本ならではの美容技術を求めているエリアへ進出し、自身の持つ美容技術を駆使して働きます。
たとえば、美容院で高い技術を求める人は、おしゃれや流行に敏感な若者世代に多く見られます。そこで、若者が多く美容への関心が高い国を選ぶことで、国や技術次第で大きな成功を収められるかもしれません。
ただし、海外で活躍するとなると、日常会話や雑談をこなせる高い語学力や、美容師として現地専用のライセンスが必要となるケースもあり、難易度は高めです。将来のキャリアプランを考えるとき、海外進出すべきかも併せて検討してみましょう。
まとめ
美容師は技術や資格が必要なため、AIやロボットに取って代わられるリスクが少なく、需要も高い仕事です。就職先は全国どこにでもあり、仕事に困る心配はないと考えられます。
また、スキル次第でトップスタイリストや店長などへのキャリアアップや、昇給を目指していけるのも特徴です。自分のスキルを磨き、セルフプロデュースやトータルでの美のサポートなどを通じて、美容師としての知名度を高めれば、将来的には独立開業も視野に入ります。
訪問美容師やシェアサロンなど、美容師としての働き方は多様です。美容師になるか悩んでいるなら、まずはどのような働き方をしていきたいのか考え、資格取得に向けて動いていきましょう。
監修者:齊藤 彩子
美容師
学校法人 国際共立学園 国際理容美容専門学校 美容科学科長
国際共立学園は創立69年の伝統ある学園で、職人の技術偏重主義に決して偏ることなく、あらゆる職業を通して、豊かな人間性を併せ持った職業人育成を目指している。『夢をかなえる 人づくり』を教育のテーマに、これまでの教育実績をさらに進化させ、社会に貢献できる人材を育成している。
監修者:秋田 繁樹
特定社会保険労務士
社会保険労務士法人 秋田国際人事総研
2004年に秋田社会保険労務士事務所として開業。スタートアップをはじめ中小企業の就業規則の作成や労働トラブルの予防や解決のためアドバイスを行っています。